私は何も言えなかった。雅樹さんも同じだ。 優しく穏やかで、優秀な執事然としていた秋永さんが、復讐のためだけに私に親身になっていた。その罪をこの人は、今にも死にそうな顔で告白している。 ここで罵倒され、軽蔑されても仕方ないと思っているんだろう。でもそんな気にはちっともなれなかった。

「秋永さん」
「...はい」
「私は...あなたを恨めと言われても、恨めません」
「お嬢様、ですがー」
「水流井になら言いたいことが沢山あります...でも内心がどうであれ、あなたは私に協力してくれました」
「親父、親父は笹ヶ谷様にも協力してただろ?」

雅樹さんが口を挟んできたが、私は止めなかった。

「呉服店がどれほどブラックでいつ労基が来てもおかしくないか、笹ヶ谷様に証拠付きで教えてたの、俺知ってるぞ」
「...」
「奥様と笹ヶ谷様のことだって調べてただろ? 旦那様には自分が勧めた見合いだからって言ってたけど、そういう裏があったんだな」

私は秋永さんの顔を見ようと思ったけど、顔を伏せていたからわからなかった。いつでも背筋を伸ばし、若々しかった彼が、ひどく年老いてしまったように見える。

「秋永さんは...夏菜子さんは復讐なんて望まないって知っていたんですね」

秋永さんがやっと顔をあげた。不意をつかれたと言わんばかりの表情に、私は自分の中で整理をつけるつもりで続けた。

「夏菜子さんが正気だったら、至らない自分のせいだって考えただろうから...彼女の気持ちを無視した自分が許せなくて、恨んでほしいんですよね?」
「お嬢、様...」
「それならーー私は絶対にあなたを恨みません」

秋永さんの、アーモンド型の目が見開かれた。こんな驚いた顔は初めて見るなと思いながら、私はさらに言葉を続けた。

「それが、私があなたに向ける“恨み言”です」