目の前に現れていた、幾つも連なる鳥居の道。
溢れる光が、彼女を包んで霧となった。

まだ彼女に抱きしめられた温もりが消えてくれなくて、心臓が激しく脈を打つ。
目頭が燃えるように熱くなり、胸が締められて苦しい。


……違う。これは違うんだ。私は誰か一人を特別に想ってはいけない。平等でなければならないのだから…。

自分の感情を握りつぶすように、固く拳をつくる。

「なあ。右狐、左狐」

「はい」 「何ですか標様」

「神とは…一体何なのだろうな」

私は生き物に、各々の適した道へと導く神だ。
なのに、自分の進みたい道……誰か一人を愛するという道に進むことは許されない。


風が吹き、長いコートがバサリと鳴く。

彼女が選んだこの服が、やけに重く、苦しく、


─────愛おしく感じた。




♡5
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