橋本さんがいるわけでもなかったので、偽る必要もなかったのに。

「付き合ってないなら、姫奈に黒川を紹介しようかなぁ」

突然の提案に目を瞬く。

「え?」

「あいつ、黒川に会ってからから“黒川、黒川”ってうるさいんだよね」

頭の中に女版柏木君の顔が浮かんだ。

同時に彼女が黒川君に興味津々な様子でいたことも思い出す。

「二人が付き合ってないのなら、紹介してやってもいい?」

本気で言っているのか、からかっているのかわかりにくい。

胸の中にもやっとした暗い思いが立ち込める。

その正体は黒川君を独り占めしたいという焦りだ。

「今井さん?」

柏木君のくっきりとした二重瞼が、私を試すように見つめる。

「いいよって言えない」

正直に答えた次の瞬間、柏木君がハハッと笑う。