つらい過去という言葉が気になったが、

「勿論ですよ。望んでつらい思いなんて、誰もしないでしょう?前だけ見ていけばいいと思いますよ」

その言葉は、自分に言い聞かせている部分もあったが、麻木さんの存在に僕自身も救われていたのまた本音だ。

恋も友人も一度に失った僕にとって、優しい麻木さんは、やはり癒しだったから。

洗濯終了の電子音がすると、麻木さんは立ち上がり、またしても手際よく洗濯物を干してくれた。

下着などもあったので、正直、恥ずかしかったが、麻木さんは全く気にも留めていない様子だ。

「じゃあ、私はそろそろ帰りますね」

「あ…ホントに、ありがとうございました」

「何言ってるんですか。私のほうが、よほどありがとうと言いたいですよ。というか…」

「ん?」

「何だか…いいですよね。ありがとうって言葉。言うのも、言われるのも…」

そう言って微笑むと、麻木さんは帰っていった。