「ああ! 集中できない!」

 ジェラルドは執務室で書類をまき散らしながら、頭を抱えていた。
 脳内にはあの日婚約破棄したときの情景がずっと残り続けている。

(あのクラリスの表情が忘れられない、あの切なそうな顔はなんだ)

 書類の裏になんでもない線を落書きしながら考える。

(エドガールに彼女の邪魔をしていると言われた。彼女は他の誰かが好きなんだろうか)

 エドガールは確かに「クラリスが君の邪魔をしている」と言ったのだが、公務をこなしながら聞いていたジェラルドは『君がクラリスの邪魔をしている』と聞き間違えていた。
 それほどまでにこの王子は天然で少し抜けていた。

(しかし、やはり俺はクラリスが好きだ。この気持ちを伝えるべきか否か)

 すると、悩むジェラルドのもとへ王がやってきた。

「父上っ!」
「ジェラルド、今から父親としてのアドバイスをする」
「父親としてのアドバイスですか?」

 そういうと、王は意を決したかのようにゆっくりタメを作ると口を開いた。

「お前は天然だ」
「……はい?」
「そしてクラリス嬢はちと鈍感だ」
「はぁ……」

 ジェラルドは父親である王が何を言いたいのかわからなかった。

「ジェラルド、お前は何を守らなければいけない?」
「守るものですか?」
「それをしっかり考えてみろ。そうしたら答えは出る」

 それから、と王はジェラルドの耳元でこっそりと王命を伝える。

「真実(まこと)にございますか?」
「ああ、だから頼んだ、これは立派な王命だ」
「かしこまりました」

 それだけを言い残すと、王はそのまま部屋を出て立ち去る。

 机には広げられた公務の書類がびっちりある。
 それを手に取ると、ジェラルドはそれを空中に投げ捨てた。

(俺はやはりクラリスと共にあり、クラリスと幸せになりたい! それにやらなければならないことがある)

「ジェラルド様?! どちらへ?!」
「ルノアール邸へ向かう!」

 そうメイドに言い残して馬車へと乗り込むジェラルド。

(クラリスは誰か好きなのかもしれない、だが俺はそれでもこの想いを伝えずにはいられない!)


 そうしてルノアール邸に着くと、エドガールの馬車がいるのが見える。

(エドガール……)

 ジェラルドの到着を目にしたクラリス専属のメイドは、慌てて彼に助けを求める。

「ジェラルド殿下!」
「クラリスとエドガールはいるか?」
「はいっ!」

 クラリスの自室へと向かったジェラルドは、乱暴される彼女を見て勢いよく飛び出した──