「僕の婚約者になってほしい」

 頬をなでられプロポーズされたエリーゼは、脳内で処理しきれずに支離滅裂な反応をする。

「えっ! あ、えっ……私が結婚で……えっと目の前にはグラーツ公爵が……え……?」

 そのあまりにしどろもどろな様子にラインハルトはくすっと笑いながら、エリーゼに告げる。


「そんなに焦らなくていい……落ち着いて」
「で、でも、あの……グラーツ公爵は数多の女性から求婚があったけど、ずっと断り続けているって……」
「確かに女性からはよくアピールはされるけど、でもそれは僕自身じゃない『ヴァンパイアの王』という肩書きしか見ていない」

 ラインハルトは少し目を伏せて、哀愁漂う顔をエリーゼに見せる。
 そして、ゆっくりとガーネット色の深い瞳でエリーゼを見つめると、そっと告げる。

「君のことが昔から好きだった、といったら信じるかい?」
「え……?」
「君は幼い頃にヴァンパイアに変異して以降も権力争いに交わろうとはしなかった。なぜだい?」

 エリーゼは虚を突かれたように言葉に詰まるが、落ち着いてラインハルトに返答した。


「……私は爵位や権力なんてものはいまいちわかりません。欲しいとも思いません……それで答えになっているでしょうか?」
「ああ、十分だよ。僕も君と同じだよ、権力争いに嫌気がさした」


(ああ……この人も同じなのね……)

 エリーゼは自分と同じ思いのラインハルトに寄り添うように、優しい目で見つめる。


「少しずつでいい、僕を婚約者として見てくれるようになるまで待つよ」

 ラインハルトは静かで囁くように言葉を紡ぐ。
 その声色や雰囲気、話すペースがエリーゼは心地よく、そしてなんだか懐かしさを覚えた。


「僕はずっと君を見ていた……僕は君を愛してる……それは忘れないで」

 儚げな表情を浮かべるラインハルトは、エリーゼの頬をもう一度なでる。

(なんでこんなに真っすぐにこの方は愛を伝えてくるの……? でも悲しそうなのはどうして……?)

 ラインハルトの愛情に少しでも応えようと、彼が頬を撫でる手をエリーゼの手が包み込む。


「私もあなたを愛する努力をします。あなたを知っていきたいので、またあなたのことを教えていただけますか?」
「……ああ、なんでも教えてあげるよ」

 そう言って優しく微笑むラインハルトは頬をなでる指でエリーゼの唇をなぞる。

「今日はもうゆっくりお休み」
「ええ……」

 ベッドで寝た様子を見届けると、ラインハルトは明かりを消してそっと部屋を後にした──