「悲しいですしショックでしたけど、別れようと言われた理由が浮気された挙句に相手が妊娠したからだったんです。それを聞いたら私と彼の関係がちっぽけなものに思えてしまって、怒ることも泣くこともできなかったんですよね」

「そう、だったのか」

 一階に着いてドアが開いても、私も理人さんも降りることなく互いを見つめ合う。

 彼はそれ以上なにも言わないけれど、表情を見ていれば心配していることが伝わってきてなぜか泣きそうになってしまった。

「あ、でも本当に結婚してから浮気されなくてよかったって、自分でも驚くほど前向きになれているんです。それに今でも彼に未練があったら、こうして理人さんに契約結婚の話を持ちかけていないと思います」

 私は彼に振られたことより、それによって祖母を悲しませてしまうことばかり考えていた。

 もしかしたら彼の気持ちが離れていたように、私も彼から気持ちが離れていたのかもしれない。ただ、早く祖母を安心させたい一心で彼との結婚に躍起になっていたのかも。

 そう思えば思うほど納得がいってしまう。