何度も目を通したカルテや検査結果を確認して、明日の手術に備えながら数時間おきに患者の様子を見に病室に向かう。

「容態は安定していますし、オペを明日に決めてよかったですね」

「あぁ、そうだな」

 回診して医局へ戻る途中、後輩医師が言いにくそうに切り出した。

「ところで、今日もご自宅には帰られないのですか?」

「……あぁ、オペが終わるまではな」

 野々花が家を出てから一度も家に帰っていない。帰ったら野々花が出迎えてくれるのが俺の中では当たり前になっていて、彼女のいない場所で一晩過ごすことを考えると、どうしても足が向かわなくなってしまった。

「あの、差し出がましいことだとわかっているんですが……渡部先生との関係をはっきりなさらなくて大丈夫なんですか? 奥様は気にされていません?」

 様子を窺いながら聞いてきた後輩は、俺のことを心配してのことだろう。

「すまないな、迷惑をかけて」

「そんなっ迷惑だなんてとんでもない! ただ、高清水先生の噂を耳にするのは後輩として気分のいいものではありません。それも面白おかしく脚色しているじゃないですか。渡部先生が一方的に付き纏っているだけで、高清水先生はなにも悪くないのに……っ!」