3年後離婚するはずが、敏腕ドクターの切愛には抗えない

それに比べて鈴木の前では緊張している様子はなく、随分と気を許しているのが表情から読みとれる。

 俺は本当に契約上の夫婦でしかないんだな。契約結婚をしたのだから当然のことなのに、野々花の笑顔を見ていると胸が苦しくなる。

 ひとしきり笑い合った後、ふたりはこちらに向かってきたから、急いで歩を進めていく。
 そして医局近くまで来た頃、足を止めた。

「別に急いでくることはなかったよな」

 たまたまその場に居合わせただけなのだから、堂々と声をかければよかったんだ。それができなかったのは、自分でも今の感情に戸惑っているからだと思う。

 そもそも契約結婚をする上で、互いに不貞は禁止と約束したはずなのに、病院で男とふたりっきりになるのはどうなんだ? それもあんな親しげに。

 落ち込んだり胸が苦しくなったり苛立ったりと、様々な感情に襲われて心が落ち着かない。

「だめだ、一度頭をリセットしよう」

 廊下大きく深呼吸をして、これから執刀するオペのことで頭をいっぱいにする。

「よし、いくか」

 気合いを入れて更衣室で手術着に着替えた。


 オペを無事に終え、その日の業務終了後はすぐに岐路につく。

 帰ったらきっと野々花が夕食を準備してくれているはず。まずはふたりでいつものように食べて、そして落ち着いてから天音のことを野々花に伝えよう。