狂った雷

杏がそう言うと、彼女を抱き締めて頭を撫でていたヤクサの瞳から一瞬光が消え、その口角がゆっくりと上がる。まるで獲物を狩ろうとしている肉食獣のようだ。しかし、彼の口から出た言葉は彼女に同情しているような優しいものだった。

「お前がそう望むのなら、我はそれに協力しよう。きっとその男と夫婦になったところで、お前は幸せになれない。一度起きたことは、二度も三度も起きるものだ」

ヤクサの言う通りだと杏は泣きながら同意し、頷く。このままあの男性と結婚しても、また裏切られるかもしれない。裏切られるかも、という思いを抱えて暮らすなど耐えられるものではない。

「そうだ。我にいい案があるぞ」

ヤクサがそう言い、驚くべきことを告げた。



ヤクサと出会ってから数日、杏は何事もなかったかのように生活をしていた。両親にはあの日見たことは話していない。そのため、二人は嬉しそうに結婚の準備を進めている。杏よりも二人の方が張り切っているくらいだ。