狂った雷

杏が目に手拭いを当てていると男性ーーーヤクサが話しかけてくる。神様など、人の目に見えるのだろうか。怪しすぎる。杏はそう思いながら手拭いを目元から取り、ヤクサの方を見た。

ヤクサは真剣な表情で杏を見ていた。その視線が絡み合った刹那、杏の心に雷に打たれたかのような衝撃が走る。彼から伝わってくる雰囲気、空気、圧が普通の人ではないと語っていた。杏の体が震え始める。

「ほ、本当にあなたは神様なのですか？」

「ああ、いかにも」

ヤクサは真剣な表情から一転、優しい笑みを浮かべる。すると、それまで彼から漂っていた圧などは消え、杏は大きく息を吐き出した。肩の力が一気に抜けたような感覚がし、ホッとしたものの、まだ心臓は激しく脈打っている。

「若い女子（おなご）がこのような場所で泣いているなど、きっと大きな理由があるのだろう？我でよければ、吐き出してほしい」

大きな手が杏の頭に触れる。男性特有のゴツゴツとした手に杏の頭は撫でられる。このようなことは、実の父親にすらしてもらったことがない。