あ、今日先生が歌っている歌は知ってる!
男性デュオの名曲で私も好きな曲だ。
先生がサビを歌い始めたらそれに合わせてハモる。
歌いながら生物室に入ると、先生は少しだけ優しい目をして私を見てくる。
イケメンなんだから、もっと見た目を気にすればいいのに、「仕事が忙しくて」と目の下にはクマもあるし、最近少し痩せたみたいだから心配している。
「野々原さん、今日も来たんだね」
「はい! ここが一番作業に集中できますし」
私は先生がざざっと物を雑に移動し、スペースを空けてくれていた机に毛糸玉を並べる。
文化祭で家庭科部で販売する、カラフルなアクリル毛糸で可愛いタワシや編みぐるみを作る係の一人なので頑張ろう。
部の活動場所の家庭科室は、ミシンを使う人や大きい物を作っている人に独占されているし、調理室はお菓子を作って文化祭に出す係の人たちが殺気立ってメニュー開発をしている。
家に帰るとやる気が出なくなっちゃう私は、一人ぼっちで作業するのもつまらないからと結城先生のところで作品を作ることにした。
そのついでに、昼食も食べていなそうな先生に、調理室からもらってきた試作品のお菓子を食べてもらったりしている。
「そうだ! 先生、購買部ですっごい人気のグッズ買えたんですあげますね」
友人で噂好きのいち子から、「購買部でたまに売ってるイチゴのキーホルダーを身に付けていると……ふふふ、幸せになれるってよ?」と意味深に言われたことがあった。
たまたま購買部を見掛けた時にあったから売れ残っていた二つとも買った。
一つは私のスクールバッグに付けた。
もう一つは、八つ当たりで大怪我をさせられた不運な先生にプレゼントしようと思った。
私がイチゴのキーホルダーを差し出すと、先生はとても戸惑った顔をした。
「これは……、どう言う意味があるのですか?」
先生は狼狽した声で聞いてくる。
「幸せになれるお守りだって聞いたんで。これで先生、次はナタを避けられますよ!」
「もうナタもボウガンも暴走スクールバスも勘弁ですね……」
先生は苦笑いをしてもイケメンだ。
先生が恐る恐る受け取ってくれたので、私は毛糸をかぎ針でどんどん編み進めていく。
私は黒とか紺とかの編みぐるみを作りたかったのに、「明るい色の方が売れる」と先輩に言われて、オレンジと黄色でクマとかネコとかお花のタワシなんかを編む。
暗い色だと目が疲れやすいって言うし、言われた通り明るい色の作品は華やかで可愛いと自分でも思う。
「野々原さんは、どうしてその色の毛糸を編んでいるんですか?」
授業の準備に追われている先生に聞かれた。
「可愛い色だからですよ。あ、先生にもネコのストラップあげますから、さっきのキーホルダーとセットにしましょう!」
私は、繊細に編めた自信作の小さいネコちゃんのストラップをプレゼントした。
可愛い物を見ると人はほっこりするのだ。最近忙しそうな先生の心を少しでも癒してねネコちゃん。
「あ……ありがとう……」
先生はちょっと嬉しそうなのに戸惑ったような顔をした。

