私が憧れの野いちご学園高等部に入学してすぐ、あの大きな事件が起きた。
生徒たちと登校時間に、暴走族の総長をしている三年生の東条朝都先輩のことを恨んでいる暴走族の集団が攻め入ってきたのだ。
同じタイミングで、私と同じ一年生なのにプロのモデルで俳優の高瀬帷君の、一番のファンを自称しその内結婚すると信じている女性がナタとボウガンを持って「帷君と同じ高校の女子なんて死ね!」なんて乗り込んできたから登校中の生徒たち周囲は混乱の嵐だ。
そんな阿鼻叫喚の最中、スクールバスが時間通りに敷地内に入ってきたが、整備不良のタイヤが急に外れて思い切り転倒したのだ。
そして、漏れたガソリンが暴走族のポイ捨てした煙草の火で燃え上がった。
暴走族たちの改造されたバイクにも燃え移り、あちこちから盛大に悲鳴が上がり、パニック映画さながらの地獄絵図になった。
……らしい。
私はこの日、日直だから気合を入れて早朝に登校したので知らなかった。
そんな地獄絵図の現場で、果敢にも生徒たちに避難指示を出していたのが生物の先生の結城先生だったのだ。
だけど、高瀬君のストーカーの女性に、「イケメンなんて私の帷君以外は全員死ね!」なんて意味不明なことを言われながら、背中をナタで切り裂かれて重傷を負ったのだ。
救急車がたくさんやってきたので、私も外で何かあったことに気付いた。
そして、血塗れで搬送された結城先生の血液型はAB型のRHマイナスで、同じ血液型の人は輸血に協力してください、と救急隊の人が呼び掛けた。
二千人に一人の確率なら、こんな大きな学園なら何人かいても不思議ではない。
私がその内の一人だったのは運命的だった。
学園の先生の車で先生が運ばれた病院へ行き、入学式の時に見掛けただけの先生に輸血をした。
偽善と言われても仕方がないことだが、このまま死なれたら寝覚が悪いな、と思ったからだ。
先生は背中に少し傷が残る程度で済み、一週間ほどで学園に復帰した。
それから、先生は私にとても感謝をしながらずっと謝罪をし続ける。
謝罪なんて必要ないのに、先生なのに生徒に迷惑を掛けた事実が許せないみたいだ。
私はそんな先生を生真面目でいい人だな、と思った。

