予想外の登場に焦った唯花は堂々と名前で呼ばれたことも、彼が島津を睨んでいることも気づかなかった。
 
「ほーら、やっぱりそうだった」
 島津は大げさに肩を竦めた。
「島津さん、システム不正の件、上から聞きました。ご報告ありがとうございました」
「もう知ってるのか、さすがだな。システム管理部として恥ずべきことだし、大事な同期のアシストになるのかもって思ったからね」

(何の話をしているの?)
 今一つふたりの会話が飲み込めない。島津は唯花に向き直る。

「佐山、俺が噛み殺される前に早く行ってくれる? あとさ、結婚するなら年下がいいっていうの訂正する。綺麗ごとかもしれないけど、お互いを必要とする気持ちが一番だと思う。俺もそういう相手、見つけるよ」
「島津君……」
「まあ、俺にもチャンスがあるかもって、一瞬思ったんだけどねー」

 真剣な顔つきになったのも束の間、島津はニヤリと笑う。
 透は焦れたように唯花を立たせた。

「――行こう」
「えっ? ちょ、ちょっと!」
 
 手首ではなく手を繋がれ、そのまま連れだされる。
 ちょっとまて、同僚たちは目をひん剥いてこちらを見ているではないか。

「愛があれば年の差なんてだぞー、がんばれ佐山―」

 訳が分からないまま引っ張られていく唯花の後姿に、島津はヒラヒラと手を振っていた。