初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます

 幼少期から鬱積したものが一気にはじけ飛んだ。
 残ったのはやり場のない虚しさ。

 それまでいい子だった反動であっという間にグレたが、悪い輩とつるむのも面倒で一匹狼のように夜の街を歩いていた。

 しかし、透の見た目の良さは人目を惹いてしまう。誘惑してくる女やそれに付随する男。トラブルに巻きこまれることも一度や二度ではなかった。
 
 あの夜も同じだった。女を奪われたと逆上した男に胸ぐらを掴まれ、殴られるとわかったが抗う気力もなかった。
 人間は自分さえよければいい生き物だ。その証拠にこちらに気付いても誰もが見て見ぬふりをして通り過ぎていく。

――もう、どうでもいい。そう思った時、視界に入ったのは踊るように路地裏に飛び込んできた唯花だった。

 あの時の彼女の必死な形相は一生忘れないだろう。

 強引に助け出された後、ファミレスに連れ込まれた。大人として説教するというので面白半分でついて行ったのだが、彼女は聞き上手でいつしか自分の事情や気持ちを吐露していた。

『お母さんのために努力し続けて偉かったね。大変だったと思うけど、ちょっと羨ましいな』

 唯花の身の上話を聞き、透は驚いた。早くに両親を亡くし祖母と暮らしているというではないか。

『おばあちゃんがいてくれてよかったわ。ひとりにならなくて済んだから』