初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます

「え……んっ!?」

 唯花の唇は透に強引に奪われていた。

 いったい透はどうしてしまったのだろう。
 非常階段とはいえ会社の人間がいつ来てもおかしくない。愛奈が追ってくる可能性だってある。
 焦った唯花は抗おうと彼の胸を手で押すが、逆に覆いかぶさるように壁に押し付けられた。

「お願い、逃げないで」
 
 一瞬浮いた唇で切なげに請われるとつい絆されそうになる。

(く……っ、流されちゃだめ!)
 
 こんな所だれかに見られたら透が大変なことになる。
 再び両手に力を込めて思い切り彼の胸を押し、身体をよじると何とか彼を引き剥がすことに成功する。

 唯花の必死の様子に透は我に返ったようだ。明らかに戸惑った声を出す。

「ごめん、俺……」
「いいから、もう行って。ずっと戻らないでいたら奥村さんと島津君におかしいと思われちゃう」
 
 表面上は取り繕いピシャリと言ったものの、心臓はバクバクだ。
 自分は少し頭と身体を冷やしてから戻った方がいいだろう。

「……わかった」
 しばらく何か言いたげにした後、透は肩を落としながら階段を上っていく。

(えっと、悪いのは折原君で合ってるのよね?)