ベッドを買い換えないのは2人の為に広くしたベッドに独りで寝る週末はさすがに辛いと思うからだ。
 
 透はまだスヤスヤと寝ている。力の抜けた寝顔はやっぱりかわいいと思ってしまう。

(私にとっても折原くんは恩人なんだよ)
 
 生きづらさを感じていたあの夜、透の『真面目の何が悪いんだ?』という言葉に、真面目は悪い事じゃないという当たり前のことに気づけた。その後は周囲の言葉はあまり気にしないでいられた。

 開き直ったことがよかったのか肩の力が抜け、職場で少しずつコミュニケーションが取れるようになり自然と仕事がしやすくなった。結果、経理の仕事の才能が開花し今に至っている。

 今まで周囲に“恋人作らないの?”とか“結婚は?”聞かれたことは何度もある。唯花はそれも笑顔で受け流してきた。
 祖母は『別に結婚しなくたっていいわよ。唯花ちゃんはどんな形でもいいから幸せになるんだよ』と言ってくれた。
 でもその祖母も3年前に亡くなってしまった。
 
 肉親がいない孤独を感じたくなくて、その後は以前にも増して仕事に力を入れた。
 出会いもなく30を超え、自分は誰も愛さずこのまま人生を終えるのかもしれないと漠然と思っていた。