好きとか愛とか

受験生に色恋がご法度なら、彼女のふりなんぞ頼んでくる壱矢はどういう位置付けになるのだろうか。

 「先輩が私をどう思ってるのか分かんないから、思いきれないだけなんだけどね」

毎日のように一緒に帰っているなら、相手も少なからず思うところがあるんじゃないだろうか。
希望的観測が強すぎる?
私が壱矢と毎日登下校するのと、安倍さんが荻野先輩と毎日帰ることは全く意味が違う気がする。
私の方は義務で、安倍さん達の方は少なからず好意だ。
本当はここで、私がそれとなく壱矢に探ってもらうよう頼もうかというのが自然な流れだと思うけれど、壱矢を利用するみたいで気が進まなかった。

彼女でもないのに、そんなことを頼むのは彼女面しすぎというか。
普段は距離を取りたがるのに、彼女役になった途端にそんなことを言い出したら壱矢が変に思うのではないかと、それが気になって、申し出が出来なかった。
私が、本物の彼女のつもりでいるなんて思われたら嫌だったから、どうしても口に出来なかった。

なんなんだろう。
どうしてこんな気持ちになるんだろう。
胃が痛い。
この先どうなるのか考えたら、胃がキリキリして押し潰されそうだった。

もう少し痛んだら胃薬服薬を考えたところで始業ベルが鳴り、大量の課題プリントを抱えた担任が教室に入ってきた。
それから授業が始まり、全員が課題の山に取り組んだ。
今日一日みんなこれにかかりっきりで、他に余裕なんてないから質問責めにされなくてすむと思ってホッとしていたが、そう簡単に恋する乙女達を追っ払えることは出来なくて。
休憩の度に、壱矢とのことを訊かれまくった。

 「いつから付き合ってるの?」

 「どっちから告白したの!?」

 「どこまでいったの??」

 「彼氏としての先輩は優しい?」

 「デートとかするの?」

 「先輩の普段ってどんな?」

 「なんて呼び合ってるの?」

などなどなど、私と壱矢の事をこと細かくほじくりにきた。
この質問に対して私から答えられることなどなに一つ無く、なにより質問してくる女子達の圧がすさまじすぎて、私は完全に気圧されてしまっていた。