好きとか愛とか

 「気持ち悪いですね」

何が綺麗だ。
もしそれが本当なら、なんで私はこの家で可愛くないだの女らしくないだの義理の妹と比較されては劣等生の烙印を押されなければならないのか。
おちょくっているのか。
家族ごっこなどと卑下している自分のどこに、綺麗な要素があるというのだろう。
妹の影に立たされ、引き立て役にうんざりして腐りきった心の持ち主が私だ。
こんなに醜くどろどろしたものが土台だというのに。
そんな内面が滲み出た私の顔は、酷く不細工に違いない。

 「なんで?壱綺麗じゃん」

他の女にもそうやって甘い言葉を掛けているのだろう。
けれどそれは、他の可愛い女にこそ相応しく、他の女だから素直に受け入れて素直に喜ぶのだ。
私には向けないで欲しい。

 「私のいないところで私のなにかが勝手に作られていくことに、吐き気がします」

私はそんなんじゃない。

 「そっか…」

 「私の話をしないでとまでは言いませんが、私について聞いた話を私にしないでください。お願いします」

どこで誰が私の事を話しても構わないが、その内容をわざわざ話されるのはごめんだった。
そういう女になれと言われているような気がして、腹立たしい。
弁当を持って壱矢の横を通り、リビングのドアへ移動する。

 「今日も遅い?」

ドアに手を掛けたところでまた呼び止められる。

 「はい」

私の帰宅は毎日遅い。
遅くしてある。

 「同じ学校だし、帰りも一人じゃ危ないから一緒に帰らないか?」

 「ありがとうございます。でも私は一人がいいので」

絶対お断りだ。
嫌いじゃないが好きでもない、不必要とまではいかないが求めてもいない。
ただ、一緒にいたくない、というそれだけ。
私の事は放っておいて欲しい。
その代わり、本当の妹を可愛がってやればいい。
でなければ、私のできが悪いから壱矢に迷惑をかけたという事になってしまう。