好きとか愛とか

なので、泣きすぎて顔が膨張したとか目が腫れてパンパンだとかにも至らず、婦警さんが貸してくれた保冷剤を当てているだけで泣き顔にもならなかった。
若干赤い目元も、家に帰る頃には何事もなくなっているだろう。
いつもと変わらない自分の姿、ということだ。
違うといえば、やんちゃ小僧の絆創膏と汚れた制服、といったところだろうか。
その他は、今朝の私と大した違いはない。
汚れたシャツが目立つので、壱矢がブレザーを羽織らせてくれているが、その程度である。

 「痛み大丈夫か?」

完全に暗くなった夜の道、手を引かれ、ゆっくり歩く足取りは一歩一歩確実に私に合わせたものだ。
痛みはないが、心なしいつもより頭がぼうっとする。
いろんな事がいっぺんに起こり、少しとはいえ泣いたことが起因しているせいなので、ぶつけたことは関係ない。
歩く速度にも関係ない。
私がゆっくり歩いているのは、別に怪我が痛いからではなく、帰りたくない理由があるからだ。

それは私の今の評価だった。

帰ったら、顔を合わせた親になんて言うか…ただそれだけが心配だった。
家に連絡はいっていないと思う。
婦警さんに頼んだから、それはしないはずだ。
じゃあ壱矢は?
壱矢がなんといって家を出たのかは知らないし、義理の妹を迎えに行かなかった私がどう位置付けされているのかも知らない。
だったら、帰宅した私はまず何を言えばいいんだろう。
迎えに行かなかったことを謝る?
けど、今はあの三人の顔をまともに見れる気がしない。

じゃあどんな顔をすればいい?
どんな顔で謝ればいい?
どんな私で帰ればいい?

母さんはどんな顔をする?