好きとか愛とか

こんな時なんと返していいのか、言葉を持ち合わせていない私はただ黙って頷いた。
もう体は震えていない。
なのに、心配そうな顔で私を見る壱矢の唇はしっかり噛み締められていた。
時おり動く視線の先は、いくつも貼られた絆創膏。
痛々しく映っているのは明白で、迎えに行かせてしまった自責が窺える。
とんだ杞憂だ。

 「傷になります」

繋いだままの手で壱矢の顎を押し、前にやってもらったのを真似て下へ引いた。
一瞬目を見開いた壱矢が切なく笑い、私の手の甲を自分の口元へ押し当てる。
これは、キス、だろうか?
どういう意味なのかはわからないが、少なくとも私としては、自分が大切に扱われて心配してもらえる存在である意思表示として受け取った。

あ…
私、大切にしてもらってるんだ…。

息を切らし、いつもの落ち着いた壱矢とは別人のあの表情。
前に学校へ迎えに来てくれたときの壱矢とは全く印象が違っていて、事の重大さを物語っていた。
自分が理解していた死活問題はもっと深かった事実に、心臓が騒ぎ始める。
そしたら急に息がしにくくなって、また血の気が引いてしまう。
生きていることを実感するということは、死んでしまうところだったという証。
終わったはずの命の危機が、また来た。

 「大丈夫です」

再び震え始めた体。
カチカチいう歯。
震えを押さえようとするのではなく、ただそれに寄り添う形で壱矢が私の手を包み込んだ。