好きとか愛とか

両手を膝の上へ乗せ、スカートもろとも掴んで握りしめた。
使わないと思っていたのに、守らない約束くらいならいくらでもと余裕をかましていたのに、まるで真逆の展開に情けなくなる。
けれど、私にはもうそれしか出来ることがない。

 「義理の、兄でも…いいですか?未成年なんですが…」

壱矢に連絡をするしか、残されていなかった。

 「構わないわ」

 「では、お願いします…」

傷の残った鞄の中から、少しくしゃくしゃになってしまっていたメモを取り出した。
壱矢からもらった、彼の連絡先。

 「ありがとう。連絡して迎えに来てもらうわね」

婦警さんが席を外し、会社の事務所にあるようなたくさんボタンのついた電話を操作する。
壱矢がくる、のか…。
出来ることなら同じ空間にはいたくないと思っていた相手と、最近よく一緒になってしまう。
求めていないのに、なんでなんだろう。

お尻で移動して、すぐそばの壁に体をもたせかけた。
打ち身の痛みに体が悲鳴を上げる。
痛みの部分を詳しく知るために体のあちこちを動かしてみると、どこで傷んでいるのか分からないほど全身がビリビリした。
よく見ると制服も所々汚れてしまっている。
破れていなくて助かったが、もみ洗いしないと土は簡単に落ちてはくれないので少しうんざりだ。
この痛手でもみ洗いは、少々きつい。

婦警さんが戻り、壱矢が迎えに来てくれると教えてくれた。
嬉しいけれど、どんな顔で会えばいいか分からない。
本物の兄弟なら抱きついて喜ぶだろう。
けれど実際は他人で、避けまくって来た対象だ。
それに、あれだけ強く迎えに行くと言いきった手前、どの面下げて?といった話である。
事が事なためすっぽかしたわけではなくても、もし壱矢が行けなかったらどうなってたいたかを考えたら、私の立場は弱い。
血の繋がった妹の方が大事なのは、火を見るより明らかだ。

それを考えると、どうにもやるせない。
早く迎えに来てほしいのか、それともこのまま永遠に迎えに来なくていいのか、どっちなのか考えるのもやるせない。
三角座りをして自分の体を抱き締めるのとほぼ同じくして、駐在所の扉が激しい音で開いた。