好きとか愛とか

 「さいがさん、大丈夫。あいらさんは無事お兄さんが迎えに来て帰られたそうよ。たまたま居合わせた担任の先生がお兄さんと話をしたということも確認できたわ。安心して?」

無事だったと聞いて、自分が助かったときと同等の安堵が胸の奥から全身に広がった。
不安に思っていたことが解消されると、対象が自分でなくてもこんなにも落ち着けるのだなと実感する。

 「申し訳ないんだけど、一旦署に帰るわね?聴取を取らないといけないの。ごめんなさいね?怖い体験の後だというのにこんなこと」

 「だいじょうぶです、ぉ仕事、ですから」

そんなことだろうと思っていた。
ドラマなんかでもすぐに聴取して、被害者やその家族が興奮するなんて場面がちょくちょくある。
それに記憶が薄れる前にというのも、合理的で効果的だ。
ゆっくりと車が発進し、学校とは逆の方へ走っていく。
ようやく現場から離れることができた。
もう二度と、あそこへは行きたくない。
ゆっくり流れる窓の景色を眺めながら、自分の体を強く抱き締めた。



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婦警さんに連れられてきたのは、大きな警察署ではなく駐在所だった。
こじんまりとした、奥に仮眠が取れる和室と湯沸かし室があるワンルーム的間取り。
入ってすぐの机には婦警さんがいて、なにやら書き物をしていた。
男の人がいたらどうしようなどという心配はなく、その辺りは婦警さんが根回ししていたようで、男性は全て出払っていた。
男物のコートや靴が、生活感を纏ってそこにあったから。
恐らく出勤時にはいてきた靴だろう。
出払うというよりは、もう一人の婦警さんと入れ替わったといった方がいいかもしれない。

奥の和室へ通された私はまず傷の手当てをしてもい、その後学校へ着いた辺りから発見されるまでの出来事を覚えている限り細かく訊かれた。
でも決して急かされず、婦警さんが出してくれた暖かなココアをゆっくり飲ませてくれるくらいのゆとりで。
ココアを一口二口すすった辺りから震えは止まり、名前を名乗った時みたいな喋りにくさも消えていた。

 「ありがとう斎賀さん。以上です」

聴取が終わり、ため息が溢れる。
視線を下げると、予想外に手当てされた場所が多かった。