好きとか愛とか

だって、誰が思う?
怪しまれるような見た目ではないのだから、ノーマークなのは当たり前だ。

 「可愛いよね、この制服。君によく似合ってる」

私の首近くににカッターが添えられていて、それが肌を切り裂くかどうかは私の態度次第なのだろう。
行っても地獄戻っても地獄、こういうときの言葉だと悟った。

 「怖がらなくていいよ、大丈夫。頭のいい子がそういう時どんな顔するのか、見たいだけだから。痛いことはしないよ」

自分の自覚以上に震えていることが、ガチガチいう自分のはのおとで気付かされる。
リボンに手が伸び、ゆっくり外された。
地面に捨てられた赤いリボンが、飛び散った血液に見える。

助けて、
誰か、
お願いっ!!

声にならない声なのか、声すら出ていないのか、それすらもう自力で確かめることができない。
次に男が私の髪に指を絡ませ、質感を楽しむように指先で遊んでいる。
カッターなど突きつけられていなくて、もし自分に抵抗する選択肢が残されていても、こんなに狂気に満ちた人間を前にしてしまっては、なにもできなかっただろう。
私はきっと、このまま、この気持ちの悪い男に尊厳を壊されてしまうんだ。

嫌だっ、
こんなの嫌だっ、
なんで私がこんな目に…。

日頃からは母親に可愛げがないと呆れられ、義理の妹と比べられては自分の存在意義を失い、それに必死で合わせてきたのに。
なにも悪いことなんてしていないのに。
可愛げがないなんて、可愛くないなんて、じゃあなんでこんな可愛くない女がこんな男に拉致されたというのか。