好きとか愛とか

ビックリして離れようとすると、今度は腰に手を回される。

 「妹さんはいいから、ちょっと遊ぼうか?」

 「は?え…」

言われていることの意味が分からず、呼吸と変わらないボリュームでただのひらがながこぼれる。

 「ね?遊ぶよね?僕と」

口角だけを上げて笑う男の視線が下へ向き、誘導されるままそこを見ると、

 「っ!!!」

腰に触れるか触れないかのところに、刃物が添えられていた。
喉がヒュッと鳴る。
一般的に誰もが観たことのある、工作用のカッター。
持っていた単語帳が、地面に落ちて乱雑に広かった。
何が起きているのか、自分が今どうすべきなのか全く分からない。
血の気が下がる。
思考回路も下がる。
自分の体が冷たくなるのを感じ、ガタガタと震え始めた。
声も出せない。
自由に手足を動かすこともできない。
目だけが泳いで、微かに辺りを見ることができるだけ。
迎えの保護者はこちらに気付いてもいない。

こちらに気付いていたとしても、距離感からいちゃついているだけと取られるだけだろう。
刃物は肘に引っ掻けた鞄の裏で構えられていて、うまく隠されている。
そうなるように、この男が鞄を利用している。

 「じゃあ行こうか。ほら、もっとくっつかないとバレちゃうよ、コレ」

刃物の先が鈍く光る。
叫んだら絶対刺される。
叫ばなかった時のことは考えたくもない。
何をしてどうやって遊ぶのかは大体想像がつく。
致命傷は叫ぶ方だろう。
どう差し引きしても大人しく従った方が傷は浅い。
傷は、浅い?
本当に?