好きとか愛とか

学校につく頃には胃痛も幾分か治まり、気にさえしなければ無痛と言えるレベルになっていた。

 「壱ちゃんおはようっ」

教室に入ると、私を見つけた阿部さんが一目散に駆けてきた。
愛くるしいその動作に、女の私でさえキュンとしてしまう。

 「おはよう。昨日も楽しかった?」

 「楽しくおしゃべりして帰れたよー。これもみんな壱ちゃんのおかげ!ありがとうっ」

あの日から安倍さんは、毎日のように荻野先輩と一緒に帰っている。
次の日の約束を取り付け、メッセージの交換もしているのだとか。
私からすれば好意のない相手にそんなことはしないので、荻野先輩も安倍さんに少なからず恋愛めいたものを感じているような気がしている。
まぁ、恋愛経験がないのでなんとも言えないけれど。

 「全部安倍さんが勇気だしたからだから。私はなにもしてない」

私はただゲリラ的に荻野先輩を安倍さんに出会わせただけで、もし二人がくっつく運命なのなら、いつかどこかのタイミングで未来が重なったはずだ。
そのあとの安倍さんの勇気がなければ、次の約束など取り付けられていない。
だから私はお礼など言われる立場ではない。
逆に、そんな幸せな気持ちのお裾分けをもらえていることに、こちらがお礼を言いたいくらいだ。
鬱々した気持ちで一杯だったから、仲良くしてくれている人の幸せは私の癒しにもなる。

 「でも私お礼がしたくって。今日どこか寄っていかない?先輩と三人で」

 「先輩と?」

 「そうだよ?」

お礼?ってもう、それ付き合ってなくない?
先輩にはお礼って言ってないのかな。
先輩はお礼で呼ぶこと知らないのかな。