好きとか愛とか

 「私が行きます。大丈夫です」

 「バカ言うな。授業サボってまですることじゃないだろ。美喜子さんにはちゃんと話つけて俺が行くから、お前はなにもしなくていい。自分のことしてろ」

 「やめてください、ほんとに。それはやめてください。母には話さないでください。めんどくさくなるからやめてくれた方が助かります」

冗談じゃない。
そんなことされたら母がなんて言うか知らないのか?
また役に立たなかったと、壱はだめねぇと言われてしまう。
そんなの真っ平だ。
もう話はついたのだから。

 「けど、行かせられねぇだろ」

 「いいんです。丸く収まりますから」

肩に乗せられた手を軽く払って、寄るなとばかりに壱矢の胸元を押した。

 「丸くって、お前…」

これが一番手取り早い。
俺が行く、いいえ、壱に行かせるわ、の押し問答は長期戦必須で、だからといって壱矢が母を説き伏せることに私へのメリットはない。
壱矢の中で母はきっととんでもなく間違った母親になっているだろうが、壱矢がそれを表に出さない限りは丸く収まるのだ。
壱矢も多分、母にこれ以上自分が行くと言うこともしない。
それが実を結ばないことを知っているから。
私にも同じく、説得しに来ることもないだろう。

 「おいっ、壱っ」

呼び止める壱矢を無視した私は、少し急ぎ足で自室へ向かった。
それからいつものように勉強し、いつもの時間に家を出て、いつものように恭吾さんに見送られた。
いつもとおなじ胃痛を抱えて。