いつもの朝が今日も始まる。
私より少し遅く起きてきた壱矢が前に座り、おなじ朝食を食べている。
柄にもなく甘い期待を抱いたあの日から、相変わらずの日々が続いていた。
何一つ変わらない時間。
なにも変わらない、人間関係。
私の態度。

壱矢に連れられて帰った日も、帰りの遅い私を母は特に気にした様子でもなく出迎えてくれた。
遅かったことも、どこへ行っていたのかも、なぜ体育着なのかも尋ねず、にこにこしていた。
壱矢と一緒だったことも、効果的だったのかもしれない。
「壱は真面目だから遊び歩いたりしないし、どこかで勉強してたんでしょ?壱矢君も一緒だったならなんの心配もないわ」そんなことを言っていた。
壱矢が探し回ってくれていたことも知らないようだった。
この日は義理の妹が部活のコンクールで一人ピアノの賞を取った事もあり、母の意識はそちらへ完全に向けられていて、当然何ら変わりのない生活を繰り返す私のことなど、頭の片隅にも残っていなかった。

もちろん、壱矢には私が小さな家出をしようとしていたことは伏せてもらうように頼んだ。
わざわざ話して聞かせるようなことでもない。
了承するかわりに、今後家の事でもなんでも何かあったら絶対話すようにという約束をさせられた。
ついでに携帯番号も渡され、鞄に入っている。
かけることもなければ話すこともないけれど、約束で納得するなら安いものだったので受け入れた。

それから、帰宅した私を恭吾さんが心配してくれていたらしく私の様子を気にしてはくれたが、娘よりもたかだか遅く帰った義理の娘の心配などさせたら、また劣等生扱いが始まると思い、謝罪だけして自室へ逃げた。