それに、あの頃の友達とも引っ越してからはなかなか会えなくて、さらにスマホの必要もなくなっている。
けれど、たまに連絡をくれる友達の電話代を考えると、そろそろちゃんと考えなくてはならないのかもしれない。
けれど、スマホがほしいなんてなかなか言い出しにくい。

 「それについても、検討します。保留で」

ずっと保留でもいい。

 「なんでそんなにすんなりいかないんだろな」

強く握ってくれている手の先を見ると、私服ではなく制服だった。
もしかして着替えもそこそこに慌てて来てくれたのかな、とか、そう言えば学校に問い合わせたとか言ってたからあちこち探してくれたのかなとか、そんな調子のいい考えが頭をよぎる。
それでも今日は、そういう壱矢の気づかいがちっとも嫌ではなかった。
これを機に少しずつ、私も昔のように誰の目も気にせず振る舞えるようになるかもしれない。
そんな甘い期待さえできるくらいには、気分がよかった。