けして居心地がいいとは言えない微妙な空気が流れ、
お互い、もうどうやって普通に目を逸らしていたか、なにも考えずに普段を過ごしてきたか、わから無くなっていた。
「それじゃあ私たちは先に帰るわね」
いたたまれなくなった母がはにかんだ笑みを浮かべた。
踵を返し、次いで恭吾さんも背を向ける。
二人の仕草があまりに儚げで極端に小さく見えたものだから、消えてしまう気がした私は思わず後を追ってしまった。
「お母さんっ」
このまま帰したら、後悔してしまう。
家に帰れば母はいるのに、なぜかそう感じた。
少し震えた声で、母を呼び止める。
母は私の方へ向き直ると、小首を傾げて「どうかした?」と訊いてきた。
始まりときっかけがどうであれ、自分が少なからずこの数ヵ月は母親とまともに向き合わず逃げ腰だったことに代わりはない。
その事で、母を傷付けてしまっていたことも。
それを、なぜか今になって痛感させられた。
卒業式という空気がそう感じさせるのか…。
「私、お母さんのこと嫌いじゃないの。ただ、いつか、いつか、本当に笑って、お母さんと向き合える自分になりたいだけ。いつかみたいに、二人でいたときみたいに、お母さんの愛情に裏なんて考えなかった頃に戻りたいだけ。だから、家を出たかった、あの家にいたら、私もお母さんも、みんな、みんな潰れてしまう…」
嫌いになんかなってない。
たとえばひどく恨んで、母に怨みがましいことを思ったとしても、心底嫌いにはなれない。
一生母と関り合いになりたくないと思ったわけじゃない。
私はただ、リセットしたかったのだ。
お互い、もうどうやって普通に目を逸らしていたか、なにも考えずに普段を過ごしてきたか、わから無くなっていた。
「それじゃあ私たちは先に帰るわね」
いたたまれなくなった母がはにかんだ笑みを浮かべた。
踵を返し、次いで恭吾さんも背を向ける。
二人の仕草があまりに儚げで極端に小さく見えたものだから、消えてしまう気がした私は思わず後を追ってしまった。
「お母さんっ」
このまま帰したら、後悔してしまう。
家に帰れば母はいるのに、なぜかそう感じた。
少し震えた声で、母を呼び止める。
母は私の方へ向き直ると、小首を傾げて「どうかした?」と訊いてきた。
始まりときっかけがどうであれ、自分が少なからずこの数ヵ月は母親とまともに向き合わず逃げ腰だったことに代わりはない。
その事で、母を傷付けてしまっていたことも。
それを、なぜか今になって痛感させられた。
卒業式という空気がそう感じさせるのか…。
「私、お母さんのこと嫌いじゃないの。ただ、いつか、いつか、本当に笑って、お母さんと向き合える自分になりたいだけ。いつかみたいに、二人でいたときみたいに、お母さんの愛情に裏なんて考えなかった頃に戻りたいだけ。だから、家を出たかった、あの家にいたら、私もお母さんも、みんな、みんな潰れてしまう…」
嫌いになんかなってない。
たとえばひどく恨んで、母に怨みがましいことを思ったとしても、心底嫌いにはなれない。
一生母と関り合いになりたくないと思ったわけじゃない。
私はただ、リセットしたかったのだ。

