とはいえ、こうも金銭的に変化が出てしまうことには親に申し訳ない気持ちはある。
いくら今まで我慢してきたとは言っても、定期に家賃に生活費となると負担は増大。
手放しで喜ぶ、ということにはさすがにならなかった。
だらかと言ってこの家に残る選択肢に転ぶには、いささかエサが少なすぎる。

 「じゃあ私先に行きますね」

 「卒業式でてもらえないの残念すぎんだよなぁ」

玄関先まで送り出しに来てくれた壱矢が、至極残念そうに顔をしかめてぼやき声をあげた。
本来、卒業生を送り出すのは在校生の任務で昔から受け継がれている行事ではあるし、それはうちの高校も変わりはしない。
けれど、普通科と特進では都合が違っていて、普通科と特進それぞれでの卒業式となっている。
だから私は壱矢の卒業式に参加できない。
ふざけた決まりと伝統だ。

 「私も出たかったです」

 「……………………」

 「なんですか?」

ポカンと口を開けて私を見ている壱矢の顔を、下から覗き込む。
壱矢は緩やかに笑って私の頬を指で撫でた。

 「いや、あんなに近づくなオーラだしてた壱が、俺にはすっかり甘えただなぁと」

 「っ!、あま…っ、」

確かに、言われたことに思い当たる節はある。
けど、はっきりそこを指摘されると反応せずにはいられない。
それに、壱矢とのこの距離感には居心地の良さすら覚えている。
だからといって、やられっぱなしも悔しい。
思いきって、今まで言ったことのないフレーズを口にしてみようかと思う。
壱矢が面食らえばいいな。

 「そ、そりゃ、私…彼女、ですし…」

はっきりでもなくボソボソでもなく、その中間で呟いた言葉に自分で言ってて恥ずかしくなってしまった。
こういうとき、羞恥心を感じたもの負けというのはお決まりの敗北要因だというのに、恥ずかしさに飲まれた私は盛大に顔を真っ赤にして俯いてしまった。