うなだれる夏はしぶとく存在を残しつつ、秋に追い出された。
吐く息が白い冬はあっという間に過ぎ、しかしまだ寒さの残る春目前の今日、一つの節目が訪れる。
壱矢が、卒業するのだ。

 「卒業式のあと、二人で部屋行こっか」

いつもと同じに早起きをして、いつもと変わらず朝食を摂っていた私の前で、暖かいココアをすすった壱矢が片手で頬杖をついた。

 「はい」

緑茶をすすった私は、食器をひとまとめにしつつ頷いて答えた。
壱矢の言う部屋とはこの家のではなく、壱矢が大学へ通うために用意された部屋のこと。
そして、私が新たに生活を始める場所でもある。
あの修羅場から、どちらも折れることはない平行線状態が続き、家の中は空気が張り詰めて息が詰まりそうなほどだった。
愛羅は変わらずわがままし放題だし、母は特にそれを正そうともせず野放しだ。
加えて、私と壱矢が付き合っていることが気に入らない悪意が、今は私へ一直線に向けられていた。
居心地は前にも増して悪くなっている。

朝起きて顔を合わせれば「どろぼう猫」だの「フシダラ女」など、同じ空気を吸いたくない一緒に洗濯をして欲しくないなどなど挙げ始めたらきりがないほど、私に消えて欲しい発言が目立っていた。
一度素の自分を曝してたかが外れたのか、激しい感情にはオブラートにさえ包まれてはいない。

壱矢の大学受験が近づくにつれ、一歩一歩憎悪に変わっていった事をひしひしと感じた。
けれど私と壱矢との思いが変わらなかった。
それどころか、愛羅が何をしようと、何を言おうと二人でいたいことへの強さが増してきたのだ。
むしろ、愛羅がそんなだからと言った方が説得力があるだろう。
恭吾さんや母にもいやというほど伝わったらしい。