好きとか愛とか

情熱に任せて突っ走ったことはないのか、手を繋いだときのあの甘酸っぱさ、肌を重ねたときのあのえもいわれぬ幸福感。
そういった恋愛から生じる気持ちが愛以外のものなら、それを提示しろといっているだけのこと。

 「俺たちと父さんたちの違いを納得できない以上、俺も諦めることはない。結婚と恋愛が違うって言うなら俺も結婚するよ。高校出て就職する。進学に未練もないし」

 「馬鹿を言うな。二人で生活なんかできないだろ。親の脛をかじってる未成年なんだ」

「そこもっと考えるべきは父さんたちだったね。もちろん、親の脛はかじりつくさせてもらうよ。俺たちを家族として型にはめて住まわせた時点で、そっちに勝ち目は無い。父さんたちは自分達の恋愛感情を優先したんだ。結婚に反対はしてないけど、だからって全て親の思惑通りじゃフェアじゃない。俺と壱のことを認めてくれないなら、自分達もその感情捨てるくらいのことして当然だ」

離婚も再婚も、全て親の身勝手だ。
嫌だから別れて、好きだから結婚した。
私と壱矢に不適切だと言うのなら、まず自分達が見本を見せて欲しい。
親からすればとんでもない申し出だ。
家にいたくないから同棲させろ、というものなのだから。
だからといって、私ももう引けない。
引きたくない。
このままこの家で、腫れ物みたいに扱われて過ごすなんて考えただけで寒気がする。

 「俺らの気持ちも分かるだろって話だよ、父さん」

脅迫紛いな提案に、恭吾さんと母はすっかり脱力してしまっている。
ほんの僅かな時間なのに、酷くやつれて見えた。
母なんかもう、床に座り込んだまま動こうともしない。
恭吾さんがよれよれと髪をかきあげ、そのまま口許を両手でおおった。