好きとか愛とか

ほんとに、いったい今までどういう思考回路で話を聞いていたのだろう。
壱矢に賛成だ。

 「行きたいです。愛羅と比べられるのは、もう…嫌なんです。先輩が連れ出してくれるなら、ついていきたいです」

迷う要素などどこにもない。
甘い考えかもしれないけど、許されても許されなくても出ていきたい気持ちの方が断然多かった。

 「壱っ、あなたなに言ってるのっ、どうしちゃったのよ…」

力無く床に崩れ落ち、気力も尽き果てた様子で泣きが入っている。
そんな母を支えた恭吾さんが、私と壱矢に厳しい視線を向けた。

 「いや、お前ら二人だけでなんて許されるはずがない。仮にも男と女が…っ」

 「兄妹なんだろ?俺たち。ならいいだろ?俺らをちゃんと兄妹として扱ってきた自信があるなら、なにも心配いらないんじゃないの?自分らの子育て信用してるんだろ?そういうやり方だったろ?」

痛いところをつかれた恭吾さんが口ごもり、そして私と壱矢を交互に見回す。
寄り添った私たちを見て、当然の結論に行き着いた。
半信半疑が確信に変わる、そんな目で壱矢を見据えた。

 「壱矢…、お前まさか」

 「付き合ってるよ、俺たち」

事も無げに壱矢が認めた直後、床に座り込んだままの母が顔を両手でおおって首を振っている。
漫画やテレビドラマと同じ動作に、大袈裟が過ぎて笑えてきた。
しばしの沈黙が降り、さっきまでは聞こえなかったセミの声が代わりに割って入る。

 「い、壱矢…、お、お前たち、そんな、どういうことだ。何を言ってるんだ、兄妹なんだぞっ?」

恭吾さんの動揺もハンパない。

 「違うよ、ただの他人だよ」

言いきる壱矢は、私が家出を画策した日と同じ堂々さである。
こんなかたちで暴露するとは思わなかった。