好きとか愛とか

恭吾さんに向き直り、今まで彼の前では見せたことの無い無礼さで睨んだ。
目が据わっているのが自分で分かる。

 「恭吾さんも、教えてください。先輩が謝らなければないことは、あなた方二人がしてきたことよりも罪が深いんですか?一人の子供を優先して悲しい思いをさせたことへの詫びがないのに、どうして私たちが謝らなくちゃいけないんですか?自分達で撒いた種なのでは?」

きちんと子供と向き合えばよかった。
何から逃げたかったのか知らないが、寂しいだのなんだの言うのであれば別の方法で慰めてやればよかったのだ。
言いなりになることが、寂しい子供の気持ちを救えるわけではない。
心を寄り添わせることが、寂しさを埋めるのだ。

 「不義理を承知で言います。私たちからの謝罪を求めるなんて、厚かましいです」

恭吾さんにこんなこと言って反抗するのは初めてだ。
怖くて、全身が震えている。
声も震えている。
それを感じ取った壱矢が、私を抱き寄せて支えてくれた。

 「高校出たら、俺と壱で一緒に住むよ」

私でさえ聞いていなかった爆弾発言に、他の二人と一緒に壱矢を見た。
そういえば私に何か言いかけていたことがあったけど、もしかしてこの事だったのだろうか。
思い当たる節のある私と、残りの二人とでは反応がもちろん違っていて。
恭吾さんに至ってはあんぐり口を開けて呆然としていた。
息子のとんでも発言に面食らっていた。

 「は…な、なに言ってるんだお前は。そんなこと出来るわけないだろ。大体どうして壱ちゃんと一緒に住む必要があるんだ。壱ちゃんにはこの家があるだろう」

 「さっきまでの話し聞いてた?壱がそれ望んでると思う?」

恭吾んと母の視線が同時に向けられた。
さっき私が驚いたのを見ている二人は、当然断るだろうと思っている。