好きとか愛とか

私が信用してないなんて微塵も思い付かなかった母が、目をまん丸にして壱矢を振り返った。

 「えぇっ…?」

 「あなたを、信用していないからですよ、喜美子さん」

 「どぅ、して……」

震える体よりさらに振動を増した母から出た声は、掠れすぎてほとんど聞き取れない。

 「この件を話して真っ先に何を言われるのか怖かったんですよ。愛羅を迎えにいかなかったことを先に責められてしまったらどうしよう。制服を汚してビリビリになったことを叱られたらどうしよう、愛羅がそんな目に遭わなくてよかったと言われたらどうしよう、愛羅と比較されたらどうしよう、自分の身の心配を真っ先にしてくれるかどうか、その信用さえ、もう無かったんです。だから言わないでと、俺に懇願してきました。自分を優先してもらえなかった時のダメージより、迷惑をかけた娘と責められる方を選んだんです。保護された交番で、彼女が伝えた番号は、俺のものです。そしてその後、俺と面通しを終えてます。これがどういうことか、分かりますか?」

壱矢に、ここまで詳しく伝えたことはない。
自分と重なる部分があったからかのか、それは分からないけれど、壱矢はまるごと理解してくれていた。
私がどうして母にも誰にも伝えたくなかったのかを、壱矢は言わずとも分かってくれていた。

 「俺以外の男が近づくと、怖くてすくんでました…今も完全には消えてないはずです」

壱矢が恭吾さんを見る。
恭吾さんはまさか自分もかと目で訴えると、壱矢が黙って頷いて答えた。