好きとか愛とか

 「あんまりです、喜美子さん。自分の立場や家族として自分達親子を受け入れてもらおうとした事は知ってます。でも、結果だったとしてもやりすぎです。いくら愛羅のわがままを許すよう親父に言われてたとしても、自分の娘を見てやらない理由にはなりません。あなたは、自分が義理の息子と娘に気に入られようと、壱に愛羅の引き立て役を押し付けていたんですよ?」

母が息を飲んで私を見る。
私は母の顔を見れず、目が合う寸前で逸らせてしまった。
すると、壱矢が私の手を引いて自分側へ寄せると、耳元で小さく囁いた。

 「壱、約束破る、ごめん」

 「え…」

なんのことかすぐに分からなかったけれど、壱矢が次の言葉を吐こうとするときには何に対してか合点がいった。
私は慌てて壱矢の腕を掴んだ。

 「親だというのに、壱に何があったか知ろうともしない」

 「や、先輩、やめて…」

 「俺の事、嫌ってもいいよ」

でも、これが俺の言わなきゃいけないときなんだ…、壱矢がそういって私の手を握りしめる。
嫌いになんてならないし、なれないことも知ってて、ずるい。
それだけのことをしてしまう覚悟を見せられて、私は拒否することなど出来なかった。

 「なんだ、どういうことだ」

前のめりになる恭吾さんが、嫌な予感を察知して目を泳がせる。
過去が蘇り、それに飲まれる私の肩を優しく抱いて引き戻す。
左手で手を握り、右手で私を抱き寄せる。