好きとか愛とか

　｢お前にも辛い思いをさせたが、男と女じゃ母親を求める度合いも違うだろ。壱矢はそんなに母親に執着してなかったじゃないか。何を今さら｣

　｢俺だって、母さんがいなくなってショックだったよ。言わなかっただけで失ったものはでかかった。そこへ愛羅のわがままだ。我慢してきたものが少ないって、本気で思ってんのかよ｣

　｢それは、確かに、我慢させることもあったかもしれないが、愛羅はまだ中学生なんだ。この前まで小学生だった子のサポートに回るのが優先だろう｣

サポートすることと、盲目さを同じ土俵にあげられては困る。
一般的だとされても、そんなことにはついていけない。
壱矢の質問の真意が、分かっていないことがはっきり証明された。
親としての態度─────壱矢はそう言ったのだ。
答えが、愛羅をサポートする、だった。
そう答えたも同然であることに、二人はまだ気付いてさえいない。
落ち着いた私たちが精神的に大人に成長したと勘違いしているのだ。

　｢壱はどうなんだよ。こいつだって中学生だったよ。なのに、ここに来てから気ぃ使ってもらえてないんだぞ？愛羅の引き立て役みたいに扱われて、こんな可愛げあんのに、毎日毎日可愛げないって言われてわがままな愛羅より劣ってるみたいな言われかたされてんだぜ？？落ち着いてるからって大人じゃない。弁当だって作ってもらいたかったに決まってる。飯だって本当は一緒に食いたかったに決まってる。でもできなかったんだ。いつも、愛羅が高いところにいるから、比べられるから。どんなにいい子になってもどれだけ優秀でも、見てもらえないから…住めるかよ、こんな家｣

繋いだ壱矢の手が震えていた。
私の事なのに、私の事を思って心を痛めている。
この二人の理解を得るよりも、この二人がこの先変わらず愛羅を優先しても、自分のために震えるほどに悔しがってくれた壱矢とその思い出があれば、もう何もいらないと思った。