自分が何をされたのが、もしくは何をしたのか鮮明によみがえった私は、瞬間湯沸かし器よりも激しく顔を真っ赤にさせて首筋を押さえた。
のぼせてしまって曖昧な記憶だが、壱矢が私に残したのは首筋だけではない。

 「だ、大丈夫です。私は気になりませんから」

本当は気にしなければならないところだろう。
今は首筋は髪で隠れているからいいけれど、うっかりしてしまえば誰の目にも触れてしまう。
けれど、そんなこと取るに足らないことだった。

 「潔くて大変結構」

無意識に残したのではなく、確信犯だというのは壱矢の表情を見れば分かった。

 「じゃ、入るぞ?」

 「はい」

避けて通りたいけど避けられない、その瞬間がもう目前まで迫っている。
まず何から問い詰められるのか、飛び出して一晩帰らなかったことからか、それとも壱矢を巻き込んだことか、それとも、一緒に一夜を共にしたことことから察することの出来る、そういうことについてだろうか。
どちらにしても、叱られるほど悪いことをした覚えはない。
繋いだ手を強く握り、壱矢がドアノブを握った。

鍵がかかっているかもしれない、試しに手前に引くとあっさりドアが開いた。
休みとはいえ、時間も時間だから起きているらしい。
玄関に入ると同時に、リビングから慌ただしく誰かが走ってくる音が聞こえた。

 「壱ちゃん!?」

血相を変えた様子で飛び出してきたのは恭吾さんで、母ではなかったことにやっぱりかという気持ちと、虚しい気持ちがごっちゃになって入り混ざった。
ただいま、ごめんなさい、どれかを言わなければいけないのだろうか。
迎えられているのかどうかも分からず、まして謝る気などない私にはどちらも言えない。