「俺がいるから、大丈夫。自分の気持ち、ぶつけな?」

午前8時、家の玄関先で私の手を強く握った壱矢がそう声をかける。
私も壱矢の手を握り返して一つ大きく頷いた。

ホテルで一晩過ごし、モーニングセットを食べた私たちは胃の中が消化されるより早く部屋を出た。
無断で外泊した罪の意識もあり、真面目さが取り柄の私たちは、あまり遅くに帰ることをよしとしなかった。
昨日のことをうやむやに出来るはずもなく、次に顔を合わせた時に話し合いになることは目に見えていたので、さっさと済ませたかったのだ。
モヤモヤしたまま一日過ごすより、さっさとケリをつけたかった。

多分二人とも叱られる。
おそらく壱矢は、勝手な振る舞いをして電源まで落としていたことを上乗せで責められるはず。
朝起きて電源を入れたら、着信とメッセージが数十件届いていた。
壱矢はキモいだの怖いだの言っていたけど、それだけ迷惑をかけたという証拠だというのは、彼も分かっているはず。
叱責は覚悟している。
それは私も同じだった。

 「あ、ごめん、やっぱついてた」

 「へ?」

なんのことか分からず、気の抜けた声で返事をした私の首筋を、壱矢の指先が触れるか触れないかの距離で撫でた。

 「ここ」

瞬時に反応できなかったけれど、少し考えて何を示しているのか思い当たった。
夕べ、もしくは朝方のあれだ。
壱矢が私の─────