好きとか愛とか

連れ子なのに、とても可愛がってもらっている。
家族を大切にし、家族を作るために必死でなにかを掴もうとしているのも理解できる。
恭吾さん自身、手探りで余裕がないことも。

ただ、娘だけなのだ。
可愛い可愛いで育ててきた娘が、自分の選択に巻き込まれて寂しい思いをする、それが耐えられないのだ。
壱矢も私も、愛羅のように自分を晒すことが出来ないとは考えもしないで。
だから仕方ないのだ。
母も恭吾さんも、家庭が壊れないよう努力した結果なのだから。
仕方ないと、飲み込むしかないのだ。

 「なにがだよ。じゃあ壱はどうなんだよ。強く見えてるのは壱の無理で、本当は強くなんかねぇ。一緒に過ごす時間を避けるのも、顔を合わさないように時間ずらすのも、成績がいいのも、みんな、愛羅と比べられない道を選んだ結果だろ。誰も好き好んで一人でいたわけじゃない。自分で弁当つくって朝もつくって自分の事を自分でしてたのは、喜美子さんに負担かけたくなかったからだろ?」

誰にも話したことがない、私が私になった理由。
一つ一つが正解で、壱矢に筒抜けなほど未熟だったことが恥ずかしい。
肩肘はって背伸びしている自分が、壱矢が気付いていてくれていたことに感化されてむせび泣きそうになっている。
恥ずかしいのに、筒抜けで見えていたものをキャッチしてくれたことが、ことさら嬉しかった。
誰にも見られたくないくせに、見ていてくれたのが壱矢でよかった。

 「それに気づいた時、壱が越してきてすぐに止めた笑うことの理由が分かった。笑えねぇよ、そんなの。いつも比べられて、いつも譲って、いつも自分は自分を抑えさせられるなんて。どうやったって笑えない…」

最後の方は声が奮えていて、喉の奥の方から捻り出したのが伝わってきた。
怒りを押さえて、奥歯を噛み締めたときのそれと酷似している。
壱矢の前で、愛羅と比べられるのは苦痛だった。
壱矢を男として意識しているからではなく、同じ年くらいの男の子の前で自分が劣っていると母親から言われるのは、なかなか酷なことだ。