そう思うと、痛みだけを与えている気がして、壱矢が私のそばにいることのメリットが一つも思い浮かばなかった。
「壱が思ってるほど、俺はいい人間じゃない」
人差し指で私の前髪を払った壱矢が、自嘲気味な笑みを浮かべる。
「俺だって人に知られたくないこと考えもするし、嫌いな人間もいる。親父に文句言って感情ぶつけるときだってあるし、意地悪して困らせることもある。嫌なこと言って人を遠ざけることもする。俺がここにいるのは、俺がここにいたいから。お前と離れたくないからなんだよ」
いつもの、まっすぐ向き合う目。
私だけを映して、けっして離してくれない真剣な瞳が向けられる。
この目に弱い。
「たまらなく好きだよ、斎賀壱…」
私を抱き寄せ、耳に唇を押し当てた壱矢が掠れた声で囁く。
鼓膜がダイレクトに言葉をキャッチして、心の深いところから何かが込み上げてくる。
たまらないのはこっちの方だ。
壱矢に腕を回してしがみつき、彼の胸元に自らを埋める。
壱矢の、ヒュッという細い呼吸が聞こえた。
私と同じくらいに早い心臓の音が、やけに心地よい。
体温と鼓動に意識を奪われていると、頭の上から「実はさ」と壱矢の低い声が落ちてきた。
上を向くと、壱矢もこっちを見ている。
「再婚するって聞いたときは正直戸惑った。一個下の妹が出きるって、思春期の男になんて拷問だよって。しかもその子が綺麗で凛としてて自分持っててかっこいいなんて冗談じゃねぇよ。惚れないわけねぇだろ」
そんなことを私に対して感じていたなんて、壱矢と暮らし始めた頃の私が聞いたらげんなりするだろう。
けれど、二人の関係が変わった今の私には嬉しいなんて言葉じゃ足りないほど喜びに奮えている。
壱矢が以前言った通り、私を妹として見たことなんて無いというのは本当だった。
綺麗だと、私に言っていたのも嘘じゃなかった。
「壱が思ってるほど、俺はいい人間じゃない」
人差し指で私の前髪を払った壱矢が、自嘲気味な笑みを浮かべる。
「俺だって人に知られたくないこと考えもするし、嫌いな人間もいる。親父に文句言って感情ぶつけるときだってあるし、意地悪して困らせることもある。嫌なこと言って人を遠ざけることもする。俺がここにいるのは、俺がここにいたいから。お前と離れたくないからなんだよ」
いつもの、まっすぐ向き合う目。
私だけを映して、けっして離してくれない真剣な瞳が向けられる。
この目に弱い。
「たまらなく好きだよ、斎賀壱…」
私を抱き寄せ、耳に唇を押し当てた壱矢が掠れた声で囁く。
鼓膜がダイレクトに言葉をキャッチして、心の深いところから何かが込み上げてくる。
たまらないのはこっちの方だ。
壱矢に腕を回してしがみつき、彼の胸元に自らを埋める。
壱矢の、ヒュッという細い呼吸が聞こえた。
私と同じくらいに早い心臓の音が、やけに心地よい。
体温と鼓動に意識を奪われていると、頭の上から「実はさ」と壱矢の低い声が落ちてきた。
上を向くと、壱矢もこっちを見ている。
「再婚するって聞いたときは正直戸惑った。一個下の妹が出きるって、思春期の男になんて拷問だよって。しかもその子が綺麗で凛としてて自分持っててかっこいいなんて冗談じゃねぇよ。惚れないわけねぇだろ」
そんなことを私に対して感じていたなんて、壱矢と暮らし始めた頃の私が聞いたらげんなりするだろう。
けれど、二人の関係が変わった今の私には嬉しいなんて言葉じゃ足りないほど喜びに奮えている。
壱矢が以前言った通り、私を妹として見たことなんて無いというのは本当だった。
綺麗だと、私に言っていたのも嘘じゃなかった。

