好きとか愛とか

家の事も愛羅の事も恭吾さんの事も、母の事も、思い浮かべることすら出来なかった。

 「やーめた」

壱矢の事を思い、壱矢の事を考えて鼓動が跳ねたいのなら、好きなだけそうしたらいい。
広いベッドの上で、大の字になった私は激しく流れる血流と落ち着かない心臓の音に意識を預けた。
経験したことの無い今の自分全ては手に余る暴走だけれど、それはどれも無くてはならない気持ちになっている。
理解できないもの、歩み寄れないもの、そんな手に余るものはまっぴらだったのに…。
シーリングファンがぐるぐる回るのを見ながら、堂々巡りな自分の不安をそれに乗せた。

 「へーぇ、大胆」

いつの間に出てきたのか、同じローブを着た壱矢がベッドに座って私を覗き込んだ。

ふやぁぁぁっ!

ビックリしたとか驚いたとか、そんな表現では足りないくらいに動揺した私は、慌てて飛び起きて正座する。

 「あっ…、ゃ、その、大きくてつい」

自分がどんな格好で寝転がっていたのか想像すると、それはあまりにあまりで…。
とても付き合い始めたばかりの彼氏に見せられるものではない。
紐で結んであるところ以外はだらしなくはだけていた。

 「何かされたいのかと思った」

言いながら口角を上げ、いたずらに笑って私の肩を軽く突いた。

 「へぇっ!?」

簡単に後ろへ倒れた私の隣に、壱矢もごろんと横になる。

 「気持ちいいよなぁ、ふっかふかで」

言われた言葉の意味を探す私には構うこと無く、自分に腕枕した状態で私の方を向いた。
空いた方の手で髪を梳く。
シャワーで暖まった指先が心地よく髪を撫で、その振動にうっとり目を細めた。

 「先輩、すみません…」

壱矢の指が一瞬止まり、また動く。

 「何に?」

 「本当なら、先輩は自分の部屋にいたはずですし、恭吾さんと喧嘩にもならなかったでしょうから」

この時間なら自室にいて、自分のしたいことをしているはず。
私が子供みたいなことをしなければ、恭吾さんともぎくしゃくした会話をしなくてもすんだだろうし、私と家族の板挟みにだってなってない。