好きとか愛とか

とろんとして、甘く砕けた壱矢は破壊力満載だった。
髪の先を掴んで弄ばれる。

 「風呂上がりかわいい」

 「はい?」

どっちがかわいいかよ!
呂律さえもとろけてしまっている壱矢は酔ってもないのに酔ってるみたいで、それに色気もあって目のやり場に困る。
寝起きを見たことがないわけではないし、和室で一晩過ごしたときも壱矢の寝起きに立ち会っている。
なのに、今の壱矢はこれまで見てきた寝起き一発目とは全く違った装いだった。

 「ちょっとだけ…」

艶っぽく笑った壱矢が私の腕をとり、そのままベッドへ引きずり込んだ。

 「えっ」

あれよあれよという間に横にならされ、顔を上げれば私を見ている壱矢。
そしてゆっくり近づく唇。
壱矢の体温がダイレクトに伝わり、幸せな気持ちが溢れる。

 「うん、ヤバイから風呂行く」

何度かキスをして、突然動きを止めた壱矢が、何かに納得してベッドを降りた。
そのまま浴室へ向かっていく。
何がヤバイのか分からず、そのまま壱矢を見送った。

ぎょっとする。

こちらからの部屋から浴室が見える形で、壱矢の姿がはっきりではなくぼんやりシルエットで浮かんでいる。
知らなかったとは言え、無防備にもほどがある自分に絶句だ。
生活を共にしている油断が出た。
同じ家で入浴しても、いつもは全く気にもしたこと無かったのに

浴室から目逸らせた私は、落ち着かない鼓動を何とかしようと必死に別の事を考える。
けれどいくらどう頑張っても一夜と二人きりでいる現実ばかりが大きく膨らんでしまい、今日あれだけあった大事にさえ頭が回らなかった。