「……家は大丈夫でしょうか」

気持ちが落ち着き、冷静さを取り戻したとたんに嫌だと逃げ出した家のことが気になった。

 「壱が気にすることない。今までよく我慢したよ」

 「でも、酷いこと言って傷つけました」

細かくは覚えていないけれど、傷付けた自覚のある自分が罪悪感を訴えてくる。

 「愛羅が自分で撒いた種だ。頭打てばいい。壱は間違ったことは言ってない」

 「もっと言い方があったのに…私」

 「あの状況でそれは無理じゃねぇか?大事なものだったんだろ?それ」

指をさされて見た先は、握りしめたかんざし。
そう、
大切なもの。

 「はい。家に受け継がれてるものらしくて、これはどうしても私のものにしたかったんです。母の家と昔から繋がりのある私じゃなく、愛羅ちゃんが受け継ぐなんて、どうしても納得できませんでした。私にはもう、母からもらった特別なものは、これしかなかったから」

私にはもうこれしかない。
母との思い出もたくさんあるけど、どれも色褪せてしまっている私には、探す気にもなれなかた。
でもこのかんざしは、私だけが小さい頃から繋がっていた家族を証明してくれる唯一のもの。
俯いてた私を抱き寄せた壱矢に、髪を撫でられる。

 「これからは俺がいる。俺と特別なもの、たくさん作ろ?」

低く掠れた声で、けれど優しい壱矢の声が不確かな未来の約束に真実味を持たせる。

 「はい…」

私は頷いて答え、壱矢の背中に腕を回した。