好きとか愛とか

こんな場合、荻野先輩ではなく壱矢に声をかける女性の方が多いのだろう。
驚いていることがひしひし伝わってくる。

 「はい。荻野先輩に用があります。いくつかおうかがいしたいことがあるのですが、今よろしいですか?」

敬語を使うと物腰がさらに固くなってしまう。
自分でも尋問に近い口調だと思うが、他のやり方を知らない。

 「あ、うん、いいけど?」

荻野先輩も動揺しているのが見て取れる。
だってこんなのあまりに、ゲリラだから。
でも一旦止まってしまったら動けなくなってしまう。
こういうことは今までにしたことがないから勝手も分からない。
勢い任せで来たのだから、勢い任せに終えるしかない。
後ろで安倍さんが私の方を凝視しているのが、雰囲気で伝わってくる。
自分から言い出したことだ、逃げるわけにはいかない。
女は度胸、私はやる。

 「荻野先輩は今付き合ってらっしゃるかたはいますか?」

勢い余って割りと食い気味に行ってしまった直後、

 「えっ!?」

何故か壱矢が大きな声を出して驚いていた。
咄嗟に壱矢を見ると、咳払いをして「ごめん」と謝る。
違う、あんたに言ったんじゃない。

先に壱矢に驚かれてしまった荻野先輩はタイミングを逃したらしい。
先に泣かれたら泣けなくなるあれと似たようなものだろうか。
荻野先輩は顔を赤く染め、口元に手を当てて私を見つめている。
あれ、待って、これもしかして?

 「心配なさらず、私が口説きたいわけではありません」

私が想っているとか勘違いされたら困る。