好きとか愛とか

何だかんだと言われたところで引くはずもなく、開き直り万歳。
完全に自己中の国の姫と化していた。

 「そんなのっ、愛羅だけが悪いんじゃないもん!いっちゃんだって、嫌なら嫌だって言ったらよかったじゃん。言わずにくれたんだから愛羅が責められることじゃないでしょ!」

 「人のせいにすんな。お前これまででも、嫌だっつったら諦めたことあんのか?あのとき壱は嫌だって言ったろ。譲れないって言ってたろ。いい加減にしろよ、マジで」

兄妹喧嘩が始まってしまった。
これは私のせいなんだろうか。
このところ、壱矢が最初から攻撃的でどうしてしまったのかと心配になる。
壱矢も我慢していることが、たまりすぎているのかもしれない。
浴衣が余ってしまった原因が自分にあることを、少なからず頭の端っこだけでも理解している愛羅の唇が、泣きべそ曲がりに歪んだ。
即座に「泣いていいのはお前じゃねぇ」だなんて言うものだから、愛羅が完全に泣いてしまった。
すぐさま駆け寄る母にも、すがり付いていじめられた感満載の愛羅にも吐き気がする。

 「これ以上失望させんな」

深いため息を吐きながらのこの追い討ち。
とうとう声を張り上げて泣きじゃくり始めた。
母の視線が、泣かせた壱矢にではなく私に来る。
あなたがすんなり承諾しないからよ、と。
母の中ではきっと、壱矢がこんなことを言ってしまったのは私が渋るからだという構図になっているだろう。
一生泣くことも出来ず、そのうち泣き止むのだから放っておけばいいものを。
思いどおりにするから、泣けばなんとかなると思ってしまうのだ。

 「大丈夫よ、壱があの浴衣着るんだから、無駄にはならないわ」

優しく、優しく、頭を撫でて中学三年の女の子を慰める姿は異様としか言いようがない。
中学三年だぞ。
どう見ても、小学生の他人に対する態度だ。
私がやったらきっと叱られていた。