そんなものを着ているというのにやっぱりこれいいかもなんて思えるはずがないし、そうなるとしたらまず私のメンタルの心配をしていただきたい。

 「またそんな言い方…、わかったわ、もう着ろとは言いません。好きになさい」

無理矢理近い状態で浴衣が奪われたことに気が付いているのか、珍しくあっさり引き下がってくれた。
よかった。

 「いっちゃん着ないの?せっかく買ってもらったのに勿体ないよー。いっちゃん着てよー」

どの口が言う?
誰が誰のために買ってもらって、誰が無駄にしたと思ってるんだろうか。
無神経を通り越して傍若無人な愛羅のこういうところは、心底嫌気のさすときがある。

 「ふざけんな、愛羅。お前が原因なんだから勝手なこと言うなよ。人のもの奪うからこんな事になってんだよ」

新聞を荒々しく置き、ダイニングテーブルの椅子に背をもたせかけた壱矢が、リビングのソファに腰を下ろす愛羅を睨んだ。
愛羅の顔がすぐさま不服げに膨らむ。

 「違うもんっ、ちゃんと了解得たもん!!無理矢理取ってないもん!お兄ちゃんなんでそんな意地悪ばっかりいうの!??」

 「愛羅がワガママだからだよ。買ってもらったんなら責任もって着ろよ。目移りしたからって誰かに押し付けんなよ。それについてはどう思ってんだよ。正しいことしてるって言えねぇだろ」

愛羅がぐっと言葉に詰まり、勢いが途中でしぼんで小さくなる。

 「それは…だってぇ」

 「誰かが引いて我慢しなきゃおさまんねぇからそうしただけで、結果的には愛羅が壱のものを取ったって事はかわんねぇよ」

愛羅の言い分には無理がある。
どう贔屓目に見ても、駄々をこねて自分の物にしたんだから後ろ暗さは残るだろう。
言われることは全て痛いところしか突いていないのだから。
けれど、さすがは甘やかされ愛羅。