私にはふりふりの浴衣なんて似合わない。
愛羅からのお下がりである浴衣を眺めていた私は、乙女チック満載なデサインに胸焼けを起こした。
こんなの絶対着たくない。
しかも自分の浴衣を奪われた代わりがこれだ。
屈辱にもほどがある。
とにかく、母が着せに来ても断固拒否することに決めていたのに、なんでこんなことに。

あの一件からしばらくして、祭りの日がやって来たわけだが、いつもと変わらない奥津家が繰り広げられている。
浴衣を奪われた私に気遣うこともない母。
奪ったくせに当たり前として、なにも気に留めていない愛羅。
そんなことがあったことも知らない恭吾さん。
そして、朝まで一緒に過ごした壱矢。

といってもそういうことはしていない。
ただ、キスをしただけ。
キスをして、壱矢が私に、好きだと言った、それだけの事。
どれだけくっついていたかも分からず、朝起きたら二人で和室に転がっていた。
寝起きの顔を見られて恥ずかしいとかそういうこともなく、普通におはようといって目を擦っただけ。
キスした事実も、私を好きだと言った事も、夢だったと片付ける方が容易いくらいの態度だった。

でもそう思えないのは、壱矢の感触が唇に残ってあったから。
好きと言われたのが思い込みでも、重なった唇は一晩明けてもそれを忘れていなかった。
なのに、壱矢は何事もなかったふうにいつも通りにしている。
だから私も、特に騒ぐこと無くいつも通りを装うしかなかった。