壱矢の目をじっと覗き込む。
私と月の光だけしか映していない瞳が、私をまっすぐ捕らえて離そうとしない。
壱矢の指に自分の指を絡めて一つ、二つ、擦りよった。

 「どんな気持ちか、教えてください」

青白い光に照らされた壱矢が、一瞬目を見開いた。
整った顔がもっと近くに寄せられ、鼻先がぶつかる。
すりすりと擦られれば、私もつられて同じように鼻と鼻を擦り会わせた。
唇に添えられていた指が顎の下を通って後ろへ回されると、抵抗できる力加減で引き寄せられる。
壱矢が上体を起こし、私に覆い被さるようにして畳みに手を着くと、そのまま自分の唇を重ねた。
壱矢の髪が、露になった額に落ちてくる。

角度を変えて何度も何度も重なり、呼吸もろとも熱まで奪われていく。

 「分かった?」

唇の上でそう訊かれれば、自分が壱矢に尋ねたような錯覚に陥る。

 「いいえ…」

正直全然分からなかった。
ただ、壱矢の体温が安心することしか、分からなかった。
だろうな、と壱矢が苦笑する。

 「俺はお前が好きだよ…」

重なったままの唇で、壱矢が囁いた。
それがどういう好きなのかも、どういう意味なのかも、私の気持ちを預けていいのかどうかも、全く分からなかった。
ずっとこうしていたい、私が感じたのはそれだけだった。